iOS26に搭載されるというデザインテーマ、「Liquid Glass」は、15年ほど前のWindows Vistaで採用されていた「Windows Aero」そのものに見える。AppleがMicrosoftを真似したと受け取られかねない事態だが、時代背景が異なるため、単純な模倣とは言い切れない。
デザインの回帰とDPIの進化
Vista時代のPC画面のDPI(当時は主に100DPI)は肉眼でドットが確認できるレベルだったが、現在のiPhoneは460ppi(DPIではなくppiという点も違いだ)。このDPIの違いこそが、透け透け感の表現力、ひいては使い勝手に大きな差を生む。Apple側から見れば、高解像度化により「透け透けデザインを適用する土壌が整った」と捉えるのが自然であろう。
Vista Aeroは先進的すぎた!
MicrosoftがVistaでシースルー(透け透け)UIを採用した背景には、「使いやすいデザイン」という名目があったものの、本質的にはGPUの活用を目に見える形で示したいという意図があったと推測される。
Vista AeroにはDirectX9サポートのGPUが必須だった。DirectX9対応により、アルファチャンネル(透明度)の扱い、ベクターデータの処理、ハードウェアによる3D処理が可能となり、それらを視覚的に表現したのがAeroであった。
Windows Vistaは、まさに先進的すぎたと言える。当時の一般的なPCのハードウェア性能やインターネット環境、そしてバッテリー技術は、Aeroのような高負荷なデザインを快適に実現するレベルには追いついていなかった。
高性能化がもたらした課題
GPU必須化はデメリットも生んだ。
- バッテリー消費増大:GPUの電力消費がPCの稼働時間を短縮させた(一部ノートPCではGPUの切り替えで対応)。
- ファイルサイズの巨大化:グラデーションなど複雑な表現が増え、画像ファイルサイズが大きくなった。貧弱なネット環境では使い勝手が悪くなる一因でもあった。
Liquid Glassと時が解決した課題
そして、満を持してのApple Liquid Glassである。現代において、Liquid Glassを実現できるほどのGPU性能は、Vista時代のような極端なバッテリー消費増には繋がりにくい。また、ネット環境も高速化しているため、ファイルサイズの増大も大きな問題とはならない。Vista時代にデザインの高性能化が抱えていた課題は、時間の経過と技術の進化が解決してくれたと言える。
フラットデザインの正当性
Liquid Glass以前、Appleが推進していたフラットデザインは、その当時は正しかった。
- 低消費電力:画面描画の負荷が少なく、消費電力が抑えられた。
- 小ファイルサイズ:アイコンなどのファイルサイズが小さく済んだ。
多くの企業ロゴや製品ロゴがフラットデザイン化したのも、ファイルサイズを少しでも小さくしようという努力の影響があったと見ている。
デザインの揺り戻し
画面デザインの歴史は、シンプル(Vista以前) → 透け透け(Vista Aero) → シンプル/フラット → **透け透け(Liquid Glass)**と変遷している。今後も「シンプルな方が見やすい」という意見が優勢になれば、再びフラットデザインへと回帰することは十分ありえるだろう。
プログラミング言語の回帰
プログラミングの世界でも「回帰」の議論がある。それが「動的開発言語が良いか?静的開発言語が良いか?」という数十年来のテーマだ。
現代ではCPUやメモリリソースが潤沢になり、動的言語の方が「使いやすい」「とっつきやすい」というメリットがある。しかし、その「とっつきやすさ」が読みにくいコーディングを生む原因にもなりかねず、結果として「やはり静的開発言語だ」という揺り戻しが生じる。
個人的には、「1バイトは血の一滴」という思想。リソースを徹底して効率的に利用する静的言語派。